CASE004 時計の針|市販の部品に、デザインを合わせない
Product Labは、
YARNの商品がどのように生まれたのかを記録する場所です。
お客様との会話や暮らしの中で見つけた課題が、一つの商品になるまで。
その過程をCaseとして残しています。
01|時計をつくるなら、針までつくりたい。
YARNで最初の時計をつくったのは、2015年2月。
そのときから、時計の針もオリジナルでつくってきました。
時計をデザインするとき、木部や文字盤を自由に考えても、最後に市販の針を取り付けると、そこだけ既製品の時計のように見えてしまうことがあります。
長さ、幅、先端の形。
時針と分針のバランス。
時計の中央にある小さな部品ですが、針が変われば時計全体の印象も変わります。
それなら、作りたい時計に合う針を探すのではなく、その時計に必要な針そのものをつくろう。
YARNの時計づくりは、最初から針を含めて考えることにしました。

【2015年2月、YARNで最初につくった時計】
02|必要な形を、自分たちでつくって確かめる。
YARNを運営する株式会社ネオには、ワイヤーカット加工設備があります。
ワイヤーカットは、細いワイヤー電極を使って金属を高い精度で切り出す加工方法です。
時計の針を自分たちで設計し、そのデータから実際の金属の針をつくることができます。
設計する。
加工する。
時計に取り付ける。
実際に動かしてみる。
形やバランスに違和感があれば、また設計を変える。
図面の上だけで決めるのではなく、実物をつくり、実際の時計に取り付けて確かめる。
市販の部品から選ぶのではなく、必要な形を自分たちで考え、すぐに実物で確認できることは、YARNの時計づくりの大きな特徴になりました。


03|最初は、量産もワイヤーカットだった。
現在、ワイヤーカットは主に新しい時計針の試作に使っています。
しかし、最初からそうだったわけではありません。
YARNで時計をつくり始めた当初は、販売する時計の針もワイヤーカットで製作していました。
ワイヤーカットなら、少量でも自由な形を高い精度でつくることができます。
一方、販売する時計の数が増えてくると、時計針を数量生産する方法としてはコストがかかります。
自分たちでつくることができる。
でも、つくれることと、その方法でつくり続けることは別です。
そこで、時計針そのもののデザインは変えず、量産するための作り方を見直すことにしました。

04|いちばん精度の高い作り方が、いちばんいいとは限らない。
2020年9月から、量産する時計針をワイヤーカットからエッチング加工へ変更しました。
ワイヤーカットでは、およそ1/100mm単位の高い精度で加工することができます。
一方、エッチング加工では、図面寸法に対しておよそ1/10mm程度の差が生じることがあります。
数字だけを比べれば、ワイヤーカットの方が高精度です。
でも、時計針をつくるために、常に1/100mm単位の加工精度が必要なわけではありません。
どこまで精度を高められるかではなく、商品としてどこまでの精度が必要なのか。
必要な品質を満たしながら、数量やコストまで含めて考える。
その結果、現在はワイヤーカットを試作に使い、量産にはエッチング加工を使っています。
新しい針をつくるときは、まずYARNで設計する。
株式会社ネオのワイヤーカットで試作する。
実際の時計に取り付け、形やバランス、動作を確認する。
仕様が決まってから、エッチング加工で量産する。
すべてを自社でつくるのではなく、自分たちで考え、確かめるところは手放さない。
現在の時計針は、そんな作り方になっています。


05|作り方を変えると、素材も変わった。
製造方法を変えたことで、もうひとつ変わったことがあります。
ワイヤーカットで製造していた頃には、リン青銅を使った時計針を採用した時計もありました。
しかし、エッチングによる量産へ移行する際、同じ方法ではリン青銅を加工できなかったため、素材を真鍮へ変更しました。
作り方が変われば、使える素材や設計条件も変わります。
素材だけを優先するのでも、加工精度だけを優先するのでもありません。
必要な精度、素材、数量、コスト、そして仕上がり。
それぞれを考えながら、商品として成立する作り方を選びます。
エッチング加工で量産された真鍮の針は、そのまま時計に取り付けるわけではありません。
YARNへ戻ってきた針を、出荷前に磨きます。

そして最後に、時計のムーブメントに取り付けるための軸を取り付けます。
設計と試作は自分たちで。
量産に適した工程は、その加工を得意とするところへ。
そして最後の仕上げと組み立ては、もう一度YARNで行う。
すべてを自社でつくることではなく、その商品に合った作り方を選ぶことを大切にしています。
06|このCASEが教えてくれたこと
YARNの時計針は、「オリジナルの部品をつくること」そのものを目的にして始まったわけではありません。
始まりは、作りたい時計に合う市販の針が見つからなかったことでした。
それなら、針そのものから考えてみる。
株式会社ネオにワイヤーカット加工設備があったことで、自分たちで設計したものをすぐに形にし、実際の時計に取り付けて確かめることができました。
最初は、そのままワイヤーカットで量産まで行っていました。
しかし、時計の販売数が増えるにつれて、同じ作り方を続けることが最適とは限らなくなりました。
そこで2020年9月、量産をエッチング加工へ変更しました。
ワイヤーカットほどの加工精度はありません。
使える素材にも違いがあります。
それでも、時計針に必要な精度を満たしながら、量産に適した方法を選ぶことができました。
このCASEから学んだのは、高い加工技術を持っているからといって、いつもその技術を使うことが正解ではないということです。
複雑につくれるから、複雑につくるのではない。
高い精度を出せるから、必要以上に精度を求めるのでもない。
自社でつくれるから、すべてを自社でつくるのでもない。
必要なものを自分たちで考え、試し、商品に合った作り方を選ぶ。
そして、市販されている部品ではつくりたいものがつくれないなら、ときにはその部品から考える。
時計の針は、2015年から続くYARNの商品づくりの中で、そのことを教えてくれた小さな部品です。

このCASEから生まれた商品
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07|開発メモ
Development Note
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開発年 | 2015年 |
| 開発のきっかけ | YARNで最初の時計を開発する際、市販の時計針ではつくりたい時計のデザインに合わなかったこと。時計本体に合わせて針そのものから設計することにした。 |
| 当時の課題 | 時計の印象を左右する針の長さ・幅・先端形状、時針と分針のバランスを自由に設計しながら、実際の時計部品として成立させること。また、販売数の増加に伴い量産方法を見直す必要が生じた。 |
| 技術課題 | 自社設計した薄い金属製の時計針を精度よく試作し、実際の時計に取り付けて形状・バランス・動作を確認できること。量産時には、必要な品質を維持しながら製造コストとのバランスを取ること。 |
| 採用した構造 | YARNで針を設計し、株式会社ネオのワイヤーカットで試作して実機確認を行う。仕様決定後はエッチング加工で外注量産し、YARNで真鍮磨きと軸の取り付けを行う。2020年9月から現在の製造方法へ変更した。 |
| 現在 | 新しい時計針も「YARNで設計 → ネオでワイヤーカット試作 → 実機確認 → エッチング加工で量産 → YARNで磨き・軸取り付け」という流れで製作している。必要な部品は自ら設計し、適切な製造方法を選ぶというYARNの商品開発につながっている。 |