CASE002 木の補助軸 Air|作り方から、形が生まれる。
Product Labは、
YARNの商品がどのように生まれたのかを記録する場所です。
お客様との会話や現場で見つけた課題が、一つの商品になるまで。
その過程をCaseとして残しています。
01|始まりは、お客様からのご相談
2021年2月。
当時販売していた「木の補助軸 スタンダード」を見たお客様から、ひとつの問い合わせが届きました。
「BLACKWING用の補助軸を作っていただくことは可能ですか?」
当時、YARNはBLACKWINGという鉛筆を知りませんでした。
調べてみると、BLACKWINGの後端には、消しゴムを交換するための特徴的な金属パーツが付いています。
そのため、鉛筆の軸を差し込んで使う一般的な補助軸には入りません。
お客様は鉛筆が好きで、高価なBLACKWINGを、できるだけ最後まで使いたいと考えていました。
それは「こんな形の商品が欲しい」という依頼ではありません。
既にある道具では解決できない、ひとつの困りごとでした。


↑YARN|木の補助軸 スタンダード
02|一本のBLACKWINGが届いた
YARNには、BLACKWINGの実物がありませんでした。
寸法だけを聞いて試作することも難しいと考え、お客様から実物を送っていただくことになりました。
届いた荷物には、一本のBLACKWINGと手紙が添えられていました。
手紙には、製品化しても市場はあまり大きくないのではないか、という趣旨の言葉も書かれていました。
つまり、お客様自身も「売れる商品になる」と考えて相談したわけではありません。
それでも、既存の道具では解決できない困りごとが、確かにありました。

03|答えは「補助軸」ではないところにあった
BLACKWINGをどのように保持するか考えているとき、Pinterestで特殊な構造を持つ筆記具を見つけました。
その構造を見て、
「この考え方を、補助軸に応用できるのではないか」
と思いました。
04|形はできた。でも、作れない。
構造のアイデアが固まり、普段カヌレなどの製作に使っている加工機で、最初の試作を行いました。
最初の断面は円形です。
見た目は細く、滑らかな一本の軸でした。
しかし、細くて長い木材を加工すると、保持している部分と反対側が大きく振れてしまいます。
加工中に製品が飛んでしまうこともありました。
形を設計することはできても、安定して作ることができない。
社内からも、
「YARNでは加工するのは難しいのではないか」
という声が出ました。
設計した形を一度作るだけでは、商品にはなりません。
同じ品質で、繰り返し安定して作れること。
それも、製品化に必要な条件です。

↑最初の試作時のイメージ。丸い軸に面取りも滑らかに設計した。
05|「作れない」なら、作り方をつくる
加工できないからといって、製品の形を簡単に諦めるのではなく、まず加工方法そのものを考え直しました。
細く長い木材を、加工中に安定して保持するための専用治具を製作。
治具によって、材料をより確実に固定できるようになりました。
ただし、治具で材料を保持するためには、円形だった断面を変える必要がありました。
その結果として生まれたのが、現在の16面体です。
木の補助軸 Airの16面は、見た目から決めたデザインではありません。
安定して加工する方法を考えた結果、残った形です。

↑当初の円形断面を実際に加工してみた。滑らかな形でしたが、加工中の失敗も多く、安定して保持することが困難でした。

↑専用治具で確実に保持するため、断面を16面体へ変更しました。
06|安定して作れる工程まで設計する
専用治具を作ったことで、すぐに商品が完成したわけではありません。
材料を治具に固定するために残した部分を、どの段階で切り落とすのか。
16面ある断面を、どの順番で仕上げるのか。
加工の方向や、刃物を当てる方法。
ひとつずつ試作しながら、製品を安定して作れる工程を組み立てていきました。
商品そのものだけでなく、それを繰り返し作るための方法まで設計する。
そこで初めて、試作品が商品に近づいていきました。

↑細く長い材料を安定して加工するための工夫
07|「作れた」ではなく、「道具として使えた」
試作品が完成したところで、最初に相談してくださったお客様へ送りました。
実際にBLACKWINGが短くなってからも使っていただき、使用感を確認してもらいました。
2021年6月、返ってきた手紙には、
「鉛筆を入れやすい」
「軽くて使いやすい」
という感想が書かれていました。
さらに、
「個人的には、この形で十分完成品ではないかと思います」
という評価もいただきました。
ここで初めて確認できたのは、「形が作れた」ということだけではありません。
実際に鉛筆を入れ、持ち、書くための道具として使えること。
そして、お客様が抱えていた困りごとを、構造によって解決できたことでした。

08|一人のための道具から、商品へ
最初のお客様自身も、BLACKWINGを使う人は限られているため、大きな市場にはならないのではないかと考えていました。
それでも、既存の補助軸では解決できない困りごとが、確かにありました。
試作品を実際に使っていただき、道具として成立することを確認できたことで、一人のために考えた補助軸を、同じ困りごとを持つ人のための商品として製作することにしました。
こうして完成したのが、「木の補助軸 Air」です。
BLACKWINGの特徴的な消しゴム用金属パーツを残したまま、鉛筆を横から入れて固定できる構造。
細く長い木部を安定して加工するために生まれた、16面体の軸。
一人のお客様から届いた相談が、構造と製造方法を考え直すきっかけとなり、ひとつの商品になりました。

09|海外にも、同じ困りごとがあった
木の補助軸 Airを紹介するようになると、海外のBLACKWINGユーザーからも問い合わせが届くようになりました。
2025年3月には、カナダのお客様、Michaelさんが木の補助軸 Airを購入してくださいました。
そして2026年8月、実際に使用したMichaelさんから、次のレビューが届きました。
“This is the best pencil extender I have found for Blackwing pencils. Practical and beautiful.”
「これまで見つけたBLACKWING用の鉛筆補助軸の中で、最も優れています。実用的で、美しい。」
最初の相談は、日本の一人のお客様から届いたものでした。
しかし、BLACKWINGをできるだけ長く使いたいという思いと、既存の補助軸では使えないという困りごとは、日本だけのものではありませんでした。
一人のために考えた構造が、国を越えて、同じ課題を持つ人の道具になる。
海外からの問い合わせとMichaelさんのレビューによって、木の補助軸 Airが解決した課題は、日本だけでなく、海外のBLACKWINGユーザーにも共通することが分かりました。

■小さな困りごとから、次の商品が生まれるかもしれません。
YARNの商品は、ひとりのお客様から届いた小さな相談をきっかけに生まれることがあります。
探しているけれど見つからないもの。
今使っているものへの、ちょっとした違和感。
そんなことがあれば、聞かせてください。
■このCASEから生まれた商品
10|開発メモ
作り方から生まれ、海を越えた形。
木の補助軸 Airの16面は、最初から見た目を整えるためにデザインしたものではありません。
一人のお客様の困りごとを解決する構造を考え、その構造を安定して作るために、専用治具と加工方法を考えました。
その作り方から生まれた16面体が、木の補助軸 Airの形になりました。
そして、日本の一人のお客様から始まった道具は、国を越えて、同じ困りごとを持つ人の手へ渡りました。
小さな相談であっても、その背景にある課題を丁寧に考えることで、誰かのための新しい道具になる。
木の補助軸 Airは、YARNの商品開発を象徴する一例です。
Development Note
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開発開始 | 2021年2月 |
| きっかけ | 「BLACKWING用の補助軸を作れないか」という一人のお客様からの相談 |
| 顧客の課題 | BLACKWING後端の金属パーツにより、一般的な差し込み式の補助軸が使えない |
| 構造上の解決 | 鉛筆を横から入れ、真鍮部品で固定する構造を採用 |
| 最初の試作 | 円形断面で試作したものの、加工時の振れが大きく、安定した製作が困難 |
| 製造上の解決 | 細く長い木材を保持する専用治具を製作 |
| 形状の変化 | 専用治具で確実に保持するため、円形断面から16面体へ変更 |
| 検証 | 最初の相談者による実使用テスト |
| 商品化 | 同じ困りごとを持つBLACKWINGユーザーのための商品として販売 |
| 海外での検証 | 2025年3月、カナダのお客様が購入。2026年8月、実使用後のレビューが届く |
| 開発のポイント | 製造方法を設計した結果、製品固有の16面体という形が生まれた |
| 現在 | 日本国内に加え、海外のBLACKWINGユーザーにも販売 |